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グロービス「OB・OGキャリアインタビュー」

vol.6

グロービス「OB・OGキャリアインタビュー」

 

人事の責任者であり経営メンバー

 

――林さんの仕事内容について詳しく教えてください
マネジング・ディレクターという役職で経営会議のメンバーも務めています。担当業務は人事以外に総務、経理やIT部門を含むバックオフィス全般です。

 

バックオフィスに関しては、最終決定をする立場にありますが、グロービスは経営チームで合議制をとっているため、経営会議が最終の意思決定の場となります。そこに、人事責任者と経営メンバーという2つの顔を持つ私が居る。私が実現したいことやチームで出したアイディアを経営会議のメンバーに伝えるということもやっています。

 

一般企業の人事部にあたるメンバーは10人ほどいて、大きく2つのチームに分かれています。1つが採用や育成、文化醸成など比較的ソフト面を担当している人材開発のチームで、もう1つが評価や労務・労政、各種制度設計・運用、異動などのいわゆる人事領域を扱うチームです。

 

――グロービスの経営戦略と人事戦略の整合性を取る林さんの存在は貴重であるものの、重責をともなう
もちろん努力しないといけませんね。ですが、どちらかと言えば私の存在は「巨大なチアリーダー」だと思っています。

 

私の最大のミッションは、私と一緒に仕事をしてくださる皆さんが各々の力を200%発揮できる環境を整えること。一人でできることは限りがあるため、一人ひとりの良さを生かしながら、チームの力を強くしていきます。そのために必要なことは、一人ひとりをよく理解できるよう努力すること。プライベートの事情や得手不得手などの情報などもランチや日頃の対話などを通じて広く得るように心がけています。

 

――グロービスは、新卒採用はなく中途採用のみ。しかも優秀な人材が集まってくる。優秀がゆえにチームとして率いるのに苦労もあるのでは
確かにグロービスは中途のみ採用しているということもあり、チームとしてまとめるのが大変と思われますが、そもそもグロービスの主たる事業である「教育」は「人の可能性を信じる」ということであり、その本質的な企業理念に共鳴できる人を採用の段階で選んでいます。
人事担当者は、「人の可能性を信じられる」人の中で、さらに「人が好き」というメンバーが集まっているため、非常に関係は良好ですし、とても良いチームだと思っています。

 

自分がやりたいことだと見つけた人事の仕事。実践と学びを繰り返し、究める
―林さんは現在、人事のトップにいますが、社会人のスタートは営業を担当していた。どのようにして人事の世界に進んだのか
モトローラに在籍中、「自分がやりたいこと、好きなことは何か」を考え抜いた結果、「人間が好き」という答えを出しました。「人」と「コミュニケーション」に関する仕事を求めて、人事の仕事を募集していたボストン・コンサルティング・グループ(BCG)へ入社しました。

 

BCGで人事のキャリアをスタートさせた林さん
当時はコンサルティング会社が脚光を浴び始めていた時期で、マッキンゼーの大前研一さんや、後に上司となるBCGの堀紘一さんがメディアに出始めていました。「無形の知恵が最先端のビジネスになる。こういう会社って今までにない。面白いな」と転職を決意しました。

 

BCGでは、人事担当リーダーとしてプロフェッショナル・スタッフの採用を皮切りに、幅広く人材マネジメントに関わりました。採用したコンサルタントが辞めないようリテンションレイトを高めることや、女性コンサルタントのキャリア形成を考えるウィメンズ・イニシアチブ・コミッティ委員なども務めていましたね。

 

グロービス「OB・OGキャリアインタビュー」

 

―林さんのBCGでのキャリアは人事としてのベースをしっかりと形作った。どのようなきっかけで新たなステップを踏むことになったか
大好きなBCGで長く働き、マネジメントとしてたくさんの部下を育成していく中で、「自分がボトルネックになる」感覚があったのです。

 

かつて会社が小さかったころは私一人で新卒から中途まで採用していましたが、それでは会社の成長に追いつけないと、部下を採用し採用チームを組成・拡大していきました。若い部下は1,2年の間でとても成長します。その様子を見ていてとてもうれしい一方、徐々に自分はこの1,2年でどれだけ成長できたのかという思いが生まれた。若い時は仕事をしているだけでいろいろなことを吸収し、学んで成長することはあります。ですが、ある程度キャリアを重ねていくと、仕事をしているだけでは成長しづらくなる。
「ここで、自分でペダルを漕がないと進んでいかない。学びを自ら行い成長する必要がある」と感じました。

 

自分のためだけでなく、部下のため、仕事のために修行しようと、同社に在籍したままある大学院に入学し、改めてビジネスを学びました。社会人大学院では、「大人が勉強するのはこんなにも楽しいものだ」というのが分かり、また、経営戦略など既に理解していることでも、教授との深いディスカッションを通じて、自分の考えを整理することができました。他社人材との交流を通じて、自分について社内とは違うベンチマークができたのも大学院で得た大きな財産の1つです。

 

大学院では博士課程の前期という形で修士を取得したので、修了後は、少し休んで今度は後期に進んでドクター論文を書こうかとも考えていました。そんなとき、縁のあるグロービスの人からのお誘いがあり、BCGを退社することになりました。

 

―グロービスには人事の仕事をしてほしいと誘われたのか

 

最初は人事ではありません。当時のグロービスは、株式会社立の経営大学院を設立したばかり※でしたので、教育の根幹となるコンテンツ開発、講師開発を担当する部門に参画しました。過去のリクルーティングやMBAホルダーとのつながりや、コンサルティング業界のつながりを生かし、優秀な方々を講師にスカウトしました。 また、同時に自分が講師として学生に教える立場にもなりました。

 

自分が教えつつ、リクルーティングした講師の“教える技能”を上げていくためのトレーニング「ファカルティ・ディベロプメント」というものを実践していましたね。
私が教えるのはやはり「人」に関わる部分です。グロービス経営大学院は、従来のMBAで学べる「ヒト・組織」「マーケ・戦略」などに加え「志(キャリアを含む)」という領域があります。「志」系科目では、自分は何を実現するためにMBAを学ぶのか、あるいは、この企業は何を実現するため存在しているのかという、個人のキャリアや企業の経営理念に踏み込みます。この「志」と「ヒト・組織」の2領域を担当しています。

 

―再び、人事の現場に戻ることになった
しばらくして、グロービスでの人事をやらないかとの声がかかったのですが、当初はかなり迷いました。

 

人に関わることが好きな自分は、当時も、教員という立場で人や組織に関れていたわけです。でも、あらためて、今までのキャリアを振り返ると、(モトローラ、BCGで) 実務をやって、(大学院で)学び、また実務を経験して学ぶことの繰り返しなのかなと。

 

実務の立場から行っていることを組織行動学や、心理学の観点からアカデミックに学ぶことでさらに深めることができていましたし、自分が研究・勉強してきたことをもう一度現場で試してみても良いかなって思えたんですね。それで人事の現場への復帰を決めました。
そして、2013年に人事の責任者として管理本部に異動し、翌年に管理本部のトップとなり現在に至ります。

 

グロービス「OB・OGキャリアインタビュー」

 

全社を動かすには、経営会議で合意をとったうえで、現場に何度も説明をし、最後は人となりで勝負

 

グロービスでは人事の改革にも着手した
―林さんが現場に戻って、どのようなことを実践したのか
私が異動してきてから変えようと思ったことのいくつかは実現できています。一番大きなものは人事メンバーのマインド。「組織サービスのプロであれ」ということで、サービスのクオリティに責任とプライドを持ち、最新の知見をもとにタイムリーに適切な対応を行い、社内で活躍する人の真のパートナーとなり、最高の職場にすることを意識してもらっています。もちろん、マインドだけを変えるのではなく評価への反映もきっちりやっています。期待に応えてくれるメンバーが集まっているので、その点はとても良かったと思いますね。

 

また、使い勝手が悪いと感じていた社内のイントラネットの改修を、人事・総務や経理、ITインフラの人も加わって横断プロジェクトで実施しました。私が人事の側に染まってしまうと、使いづらいことが当たり前になってしまうので、ユーザー感覚が失われてないときに敢行できた点が良かったです。今はとても使いやすくなり評判は良いですよ。

 

―ダイバーシティの推進も成功している
ワーキングマザーのコミュニティを創り、その中で情報交換や悩み相談ができるような仕掛けや、外国人スタッフにも綿密なヒアリングを行い、すべての人が働きやすい環境を創っています。
働きやすい組織という観点では、今年度より「働き方のフレキシビリティ」として、大幅なフレックスタイムや、夜遅くまで仕事をした場合は翌日の業務を軽減できるなど、さまざまな働きかたをもつ部門ごとにフィットした柔軟な制度の導入を実施しています。

 

また、今後は、これまでも一部導入はしていたのですが、リモートワーク制度のさらなる充実にも力を入れていく予定です。たとえば、安全に社内の環境にアクセスできたり、職場に居なくてもチームメンバーとしっかりコミュニケートできるツールを導入したり、一方で、自由度を上げるからこそ皆がオフィスに集まりたくなるような仕掛けを作ったりするということを今後実施していく予定です。

 

―管理本部発でいろいろと社内変革を実現しているが、どのように全社を巻き込んでいるのか
まずは、経営会議でしっかりと議論し、合意を形成することです。各部門のトップの皆さんに理解いただけない限りは、いくら現場に持ち込んでも浸透しません。合議でやることが決まり、納得してもらった上で協力していただく。これは私が責任を持ってやるべきことだと思っています。それから、何度も全社アナウンスを行います。私だけでなくチームのメンバーに協力を仰ぎます。メンバー自身も持ち前の人間力やコミュニケーション力を駆使して、説明責任を果たしていく。誰も眉間にシワを寄せて「やってくれ」とは言いません。「これはきっと楽しくなる」「やったらもっと良くなるよね」とアプローチをしていています。そして、やると決まればみんなポジティブに実行されていきます。グロービスの特徴と言えますが、やはりポジティブに行われている鍵は、会社の理念にフィットする人を採用しているからです。

 

グロービス「OB・OGキャリアインタビュー」

 

自由と自己責任のもと、キャリアを自ら切り拓く
―普段、どのように勉強をして、人事担当者としてキャリアを磨いているのか
社会は変わっていくので、常に勉強が必要です。関連する書籍や、セミナーへの参加など。自分が参加するだけではなく、メンバーにもどんどん外で勉強してきてもらい、後にチームに共有してもらうことで、人事全体のナレッジを高めています。いわゆる組織学習ですね。

 

―貴社の人事担当者のキャリアパス、キャリアモデルを教えてください
まず、グロービスの人事に所属しているのは、「人事をやりたい」を思っている人です。社内から人事未経験で異動した例も多い。バックグラウンドはさまざまですが、以前に人事担当をしていたという場合は、法制面での幅広い知識や、採用の深いノウハウを生かし、チームメンバーの指南役として活躍してもらっています。

 

グロービスの人事の方針は「性善説に基づく、自由と自己責任」。もし性悪説でマネージするとなると、社員を信じないということですから、ルールや制度で人を縛るしかない。でも我々は性善説ですから、社員を信じます。彼らはしっかりと会社の重要な理念やバリューを理解してくれるはず。そして、自主的にグロービス・ウェイに沿った判断や行動をしてくれるはず。一方で、ここは大人の組織ですから、自分が行ったことはきっちりと自分で責任をとってもらう。これさえ守っていれば、個々人の活動は自由であり、人事も個人が自己実現できる場所を徹底的に提供できます。

 

人は、自分の力を思い切り発揮できると嬉しいものであり、グロービスでは異動希望や処遇の希望も自己申請できるようになっています。これは、キャリアパスを考えるのも、自由と自己責任という考え方に基づいているためです。

 

後人の育成に注力しつつも、自らのキャリアを磨き続ける
株式会社グロービスマネジング・ディレクター経営管理本部本部長の林恭子氏A

 

グロービスが掲げる新たなスローガンの1つは「テクノベート」(テクノロジー+イノベーション)と、ポーズを交えて紹介してくれた林さん
―仕事のやりがいは
人事の仕事は、点(採用)を線(成長)に変えることです。部門のつながりは、面へと拡張します。個々人が成長しているときは会社が成長するとき。人の成長を直接見られることがやりがいです。一方で、人事の仕事には人を評価するという難しい面もあります。そんな局面でも誠意をもって対応することが大事だと考えており、常にフェアネスという観点を持つことを心がけています。

 

―仕事の難しさと、それを克服するにはどのような知識と経験が必要されるか
難しいのは、担当範囲が広いことから、全体に目を配りながら管理部門としてのバランスをとりつつ、全社にとって最適な運営ができるかという点です。会社には多様な事業ラインがあり、さまざまな働き方をしているメンバーがいます。その全員にとって良い制度やシステムを創るというのは大変難しいことです。ゆえに、制度を創るだけではなく、どう運用することでなるべく多くの人が快適に働ける環境が作れるかを工夫しています。

 

幸い、以前の会社で人事をしていたため土地勘があったことと、また、大学院時代に学んだMBAの知識が生かせることは良かったと思います。一方、社会は常に進化・変化しているので、管理部門に関する新しい情報にアンテナを張り、時間が許す限りセミナーや勉強会、学会にも出かけています。

 

また、カバーする範囲が多岐にわたるため、当然一人ですべてをできるわけではありません。これも幸運なことに、各分野には大変優秀なマネジャーがおり、彼らとチームとして管理本部全体を運営しています。信頼できる仲間と協働する、という経験は、社会人になってから、また、社会人大学院時代にもずっと培ってきたものかと思います。

 

―今後の目標を教えてください
メンバーがいかにしっかり人事の仕事を回していけるかという環境を創るための、後人の育成と、メンバーが思い切り活躍できる土壌を創ること。また、教員としては、多くの社会人に成長のヒントを与え続けていきたいですね。
また、会社としては従来のリアルの場での学習だけでなく、オンラインでの新しい教育方法にも力を入れており、子育て中や遠隔地など、従来教育の機会が少なかった方にも、機会を提供していきたいと考えています。リアルの場とオンラインを組み合わせて今後どのようなより良い教育が提供できるかということも目標です。

 

 

人事としては、新しい働き方の提案を続けていきます。働く時間の柔軟性の方はすでに実現できたので、働く場所のさらなる柔軟性はこれからのチャレンジです。
今後も、実務と教育の両方ができるという自分のキャリアを生かし、自己成長していきたいですね。

 

―ありがとうございました

 

林さんの「ある日の1日のスケジュール」

 

6:00 起床。朝日に向かい5分間瞑想した後、シャワーを浴び朝食。急ぎのメールを確認
8:30 出勤。電車の中で日経電子版、News Picksなどを読む
9:30 オフィス到着。メール確認後、採用チームとの戦略会議
11:00 経営チームでの定期会議
13:00 女性管理職メンバーとランチ。相談に乗ったり、情報交換など
14:00 社内研修実施後の振り返りMTGと、次回の企画のブレスト
15:00 会員である経済同友会の活動としての、中学校での講演の準備
16:00 企業研修の担当者と、次回の研修の依頼内容について確認
17:00 採用面接 19:00 大学院で、リーダーシップについての講義に登壇
22:00 講義後、社会人大学院生達と懇親会
24:00 帰宅
1:00 就寝

 

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター
林恭子

 
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